中級コース|第3回/全10回
利益が出ている会社なら、支払うお金にも困らない。そう思いたくなりますが、利益と現金は違う時刻表で動きます。商品を売った日と代金が入る日、設備を買った日と費用になる期間が、必ずしも同じではないからです。
この回では、架空の小さな卸売会社を使い、「もうけは出たのに現金が減った」を具体的に追います。会計用語をたくさん覚えるより、どの取引でお金が先に出て、どこで後から入るのかが見えることを目標にします。
100万円の売上が、その日に100万円入るとは限らない
商品を70万円で仕入れ、100万円で販売したとします。ほかの費用を無視すれば利益は30万円です。しかし仕入代金を先に支払い、販売代金は翌月入金なら、販売した月の現金は70万円減っています。100万円を受け取る権利は売掛金として残ります。
翌月に代金を回収すると、現金が100万円増え、売掛金がなくなります。その入金時に、同じ売上をもう一度100万円計上するわけではありません。利益を認識することと、債権を現金に替えることが別だからです。
この時間差を考えると、売上が急増するときに資金が必要になる理由も見えてきます。先に支払う仕入れが増え、回収は後。利益のある商売でも、成長の速さによっては資金の準備が追いつかなくなる場合があります。
| 時点 | 利益への影響 | 現金の変化 |
|---|---|---|
| 仕入れ・現金払い | 未販売の在庫はまだ売上原価にならない | −70万円 |
| 100万円で販売・未回収 | 売上100−原価70=利益30万円 | 0円 |
| 売掛金の回収 | この回収だけで再び利益は生まれない | +100万円 |
在庫は資産でも、支払いにはそのまま使えない
商品を仕入れてまだ売っていなければ、在庫として残ります。帳簿上は資産ですが、給与や家賃を払うためには現金が必要です。「資産が多いから支払いは大丈夫」とは言い切れない理由の一つです。
在庫の増加には複数の説明があります。販売が伸びるための準備、供給不足に備えた確保、売れ残り。数字が増えたという事実だけでは、どれかは決まりません。売上の伸び、商品の季節性、会社の説明と合わせます。
例えば売上が5%増えた一方で在庫が50%増えたなら、なぜ差があるのかが問いになります。ただし、単一の期末だけでは納品日などの影響もあるため、過去数期や四半期の動きを見ると理解しやすくなります。増えた在庫が後で売れたかも追いかけます。
当サイト制作。数字の定義と事業の説明を行き来して確認します。
買掛金が増えると、現金の支払いは後になる
仕入代金を後払いにしていれば、買掛金が残ります。その分、仕入れ時点で現金がすべて出るとは限りません。売掛金や在庫が増えると資金を使う方向、買掛金が増えると支払いを先へ送る方向に働く、という基本の向きを押さえます。
ただし、支払いを遅らせることを無条件によいと考えません。通常の取引条件なのか、資金不足で支払いが滞っているのかは大きく違います。また、翌期にまとめて支払うなら、その時には現金が出ていきます。
運転資金という言葉を使う際は、何を含めて計算しているかも確認します。ここでは理解のために「売掛金+在庫−買掛金」という単純化した姿を考えます。実際の企業分析では、ほかの営業上の債権・債務も関係します。
聞き手ここが気になる
営業キャッシュフローがプラスなら、安心ですか?
案内役一緒に整理しよう
一つの期間だけでは決まりません。回収が前倒しになったのか、支払いが後ろへずれたのかも見ます。複数年の動きと設備投資、返済の予定を並べます。
設備の購入は、利益と現金を別の形で動かす
配送用の設備を300万円で買ったとします。購入時にはまとまった支払いが発生しますが、会計上は資産として計上し、使用する期間へ費用を配分する場合があります。例えば説明用に五年で均等に費用化すると仮定すれば、年60万円です。これは実際の耐用年数や税務計算の指定ではありません。
この場合、購入年の現金支出300万円と、その年の費用60万円は一致しません。反対に翌年は同じ購入代金を支払わなくても、費用の配分が続きます。「減価償却費はその年の現金支出ではない」といわれる理由です。
設備投資が大きく、投資活動のキャッシュ・フローがマイナスでも、それだけで経営不振とはいえません。何を買い、その後どのように事業に役立つかを確認します。一方、成長投資という名前だけで回収を保証できるわけでもありません。
キャッシュ・フロー計算書を三つに分けて読む
営業活動は事業からの現金の動き、投資活動は設備などへの投資・売却、財務活動は借入や返済などの資金調達の動きです。細かな分類には会計基準による違いもあるため、実際の表示を見ます。
架空の会社で営業活動がプラス80万円、投資活動がマイナス150万円、財務活動がプラス100万円なら、この三つの合計はプラス30万円です。現金が増えていても、営業だけで設備投資を賄ったわけではありません。資金調達が増加を支えていることが分かります。
借りたから悪い、現金が増えたから良い、と符号だけで採点しないようにします。資金の使い道と、将来の返済条件がつながっているかを見ます。また実際の現金増減には為替換算などが加わる場合があり、三項目の合計だけで必ず一致するとは限りません。
売掛金が増えたときは、売上との関係を見る
売掛金が増えたから回収が悪化した、とすぐ決めることはできません。売上が増えれば、普段どおりの回収期間でも期末の売掛金が増えることがあります。反対に、売上がほぼ横ばいなのに売掛金だけが大きく増えたなら、支払い条件の変更や期末の売上集中などを確認したくなります。
学習用の概算として、年間売上1,200万円、期首と期末の売掛金の平均100万円なら、平均売掛金÷年間売上×365日は約30.4日です。平均売掛金が200万円なら約60.8日になります。ここでは全売上が掛売りという仮定です。現金売上が混ざる、季節性が強い、税の扱いが異なる場合には、単純計算を実際の回収日数と断定できません。
在庫にも似た問いを立てられます。販売拡大への準備なのか、売れ残りなのか。数字は原因を教えてくれる答えではなく、説明を探す入口です。資金の増減と事業の説明がつながるところまで読んでみましょう。
確認問題:営業キャッシュ・フローが急増した理由
利益は横ばいなのに営業キャッシュ・フローが大きく増えました。事業が急に強くなった、と考えてよいでしょうか。
売掛金の回収が進んだ、在庫を減らした、買掛金が増えたなどの可能性を調べます。たまたま期末に大きな入金があったかもしれません。利益の増加がなくても現金が増える理由を、貸借対照表の変化と結び付けて読みます。
ノートには「利益」「営業から得た現金」「設備などに使った現金」「調達した現金」を分けて書きます。次の回では、残っている現金と資産、近づく返済期限を並べ、会社の財務余力を考えます。
参照した資料と、この回の例について
中小機構 J-Net21「キャッシュフロー計算書」(参照内容の要約)
営業・投資・財務の区分と、利益だけでは資金の動きを捉えられないという説明を参照しました。本文の取引は税・その他の費用を省いた架空例です。
資料確認日:2026年10月27日。図解・練習問題・数値例は当サイト制作です。
中級コースを続けて読む
いま読んでいる回:第3回/全10回



全カテゴリで人気コンテンツ TOP5!