中級コース|第2回/全10回
「売上高は過去最高」と聞くと、会社は順調だと感じます。しかし同じ決算に、営業利益の減少が書かれていることがあります。売上が増えたという事実と、もうけが増えたという事実は別です。この回では架空のパン屋を使い、売上から利益までの間で何が起きたかを分けて考えます。
読み終えたときにできるようになりたいのは、増収減益を見て良い・悪いを即断することではありません。「売れた数は?」「単価は?」「どの費用が増えた?」と、次に読む説明を絞れることです。数字の裏の事業へ戻る練習になります。
売上を、売れた数と一つあたりの値段に分ける
パン屋が一個200円のパンを年間5万個売ると、売上は1,000万円です。翌年は一個220円に値上げし、5万個売れば1,100万円。売上は10%増えますが、売れた個数は増えていません。会社が大きくなる理由には数量の増加だけでなく、値段の変化もあるのです。
値上げ後に販売数が4万5,000個へ減ると、売上は990万円です。単価10%上昇と数量10%減少は、足してゼロになるわけではありません。220円×4万5,000個という掛け算で考える必要があります。売上増減を単純に一つの原因へまとめると、この関係を見落とします。
実際には商品が何種類もあります。高価格の商品が多く売れると、個別商品の値段を変えなくても平均単価が上がることがあります。これが販売構成の変化です。「単価上昇」と書かれていたら、値上げか、商品の組み合わせかも確認します。
| 条件 | 単価 | 数量 | 売上 |
|---|---|---|---|
| 前年 | 200円 | 5万個 | 1,000万円 |
| 価格だけ変化 | 220円 | 5万個 | 1,100万円 |
| 数量も減少 | 220円 | 4万5,000個 | 990万円 |
売上が増えても、費用がもっと増えれば利益は減る
前年の売上1,000万円に対して、営業費用が900万円なら営業利益は100万円です。翌年の売上が1,100万円になっても、費用が1,050万円なら利益は50万円へ減ります。売上の増加100万円を、費用の増加150万円が上回ったためです。
この段階で、値上げが失敗だったとはまだ言えません。原材料が上がり、値上げしなければさらに利益が減った可能性もあります。一方で、広告や新店舗の先行費用が増えたのかもしれません。費用の増加を、原因と継続性に分ける必要があります。
売上から売上原価を引いた粗利益と、そこから販売費・一般管理費などを引いた営業利益を順に見ると、変化した場所を探せます。材料の仕入れが重くなったのか、販売や管理の費用が増えたのかでは、次の確認先が変わります。
当サイト制作。数字の定義と事業の説明を行き来して確認します。
利益率は、規模の違いを比べる入口
前年は100万円÷1,000万円で営業利益率10%。翌年は50万円÷1,100万円で約4.5%です。売上は増えたものの、売上から残る利益の割合は小さくなっています。金額と率を並べることで、増収という見出しだけでは分からない変化が見えます。
ただし、利益率だけで異なる業種を順位付けするのは乱暴です。商品を大量に仕入れて売る事業と、継続利用されるソフトウェアの事業では、費用や資産の持ち方が違います。同じ会社の過去との比較を入口にして、同業でも事業構成を確認します。
また、売上の計上方法が総額か純額かによっても率の見え方が変わります。会計方針の変更や事業売却があった年は、率が改善していても事業の生産性がその分だけ上がったとは限りません。数字を比較できる前提を先にそろえます。
聞き手ここが気になる
売上が過去最高なら、順調と言ってよいですか?
案内役一緒に整理しよう
規模が伸びたことと、利益や資金の余裕が増えたことを分けましょう。なぜ費用が増えたか、その効果を後で確かめられるかも重要です。
固定費があると、売上の小さな差が利益に大きく響く
別の単純化した例で、売上の40%が変動費、年間500万円が固定費の店を考えます。売上1,000万円なら変動費400万円と固定費500万円を引き、利益100万円。売上が10%増えて1,100万円なら変動費440万円、利益160万円です。売上10%増に対して利益は60%増になります。
固定費が変わらないという仮定の下では、追加の売上の一部が利益に残りやすいためです。逆に売上900万円では変動費360万円、利益40万円へ減ります。この性質は、成長時には力になり、減収時には負担になります。
現実には増産のために人員や設備が必要になったり、賃料が変わったりして固定費も増えます。簡単な計算を将来へそのまま延ばすのではなく、「どの範囲なら費用が同じと考えられるか」を確認する道具として使います。
決算説明の増減要因を、足して確かめる
会社が利益の増減を説明する図を出している場合は、数量、価格、原価、為替、固定費などの項目を読みます。例えば前年100万円から、数量でプラス30万円、値上げでプラス50万円、原価でマイナス80万円、広告でマイナス50万円なら、当年50万円につながります。
この足し算ができると、「原価増が値上げ効果を上回った」「広告の増加がどれだけ続くかを知りたい」と問いが具体的になります。説明がない部分を自分の想像で埋めず、分からないものは分からないまま記録します。
為替の影響が示されていても、今後の為替を当てる必要はありません。会社の説明がどの期間・条件を比べているか、その要因が全事業に同じように働くのかを確認します。一つの理由ですべての変化を説明しようとしないことが大切です。
売上の伸びを、同じ店で比べてみる
前年10店舗で売上1億円、今年12店舗で1億1,000万円だったとします。全体は10%増収ですが、店が20%増えたからといって既存店まで好調とは限りません。単純な一店舗平均は1,000万円から約917万円へ下がります。ただし、新店が期の途中に開いたなら、一年営業した店と同じ条件で割ること自体に限界があります。
確認したいのは、既存店舗の売上、新店の営業月数、閉店した店、客数と客単価です。既存店売上という言葉も、対象に含める店の条件は会社ごとに異なります。説明資料の注記まで見ると、全体の成長と一店舗の変化を分けられます。会社が公表していない数字は、店舗数から無理に逆算して事実扱いしないようにします。
これは小売店だけの話ではありません。契約者数と一人あたりの売上、出荷数量と販売単価、稼働台数と一台あたり収入など、事業に合う単位を探せます。会社が何を主要指標として開示しているかを見ると、次の決算で追いかける対象が具体的になります。
確認問題:利益率が下がったら、成長は失敗?
新店舗を開いた年に売上が増え、利益率は下がりました。「新店舗は失敗」と結論付ける前に、何を調べればよいでしょうか。
開店時の一時的な費用、既存店舗と新店舗の売上、開業から何か月分が決算に含まれるか、店舗が成熟した後の費用構造などを確認します。先行費用だから必ず回収できる、と楽観するのも早計です。次に確認する時期と指標を決めておきます。
この回のノートには、売上の増減理由と、利益の増減理由を別々に一行ずつ書いてみましょう。次の回では、利益が出ていても現金が足りなくなる理由を、売掛金と在庫からたどります。
参照した資料と、この回の例について
資料確認日:2026年10月27日。図解・練習問題・数値例は当サイト制作です。
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