初級コース|第1回/全10回
銀行口座を見て、残高がいつもより多い。「このうち、いくらなら株を買っていいのだろう」。銘柄を探すより先に、この問いに答えておくと、その後の判断がずっと落ち着きます。口座にあるお金と、値下がりしても待てるお金は、同じではないからです。
初級コースの第1回では、投資金額を一律に決めません。自分のお金を使う時期で分け、架空の家計を使って、株に回す前の線引きを考えます。今回のゴールは「今すぐ株を買う」ことではなく、買う場合にも買わない場合にも、その理由を自分の言葉で説明できることです。
残高120万円は、120万円の投資予算ではない
たとえば口座に120万円ある人が、半年後に30万円の引っ越しを予定しているとします。来月の生活費も、この口座から出ます。さらに仕事が途切れたり、家の設備が壊れたりしたときの備えも必要です。この120万円を丸ごと「今は使っていないお金」と呼ぶと、未来の支出まで投資予算に数えてしまいます。
ここで大切なのは、口座の数ではなく、お金の役割です。一つの銀行口座の中にあっても、生活用、予定のある支出用、当面使わないお金としてメモを分けられます。逆に証券口座に移したからといって、来月の家賃だったお金が余裕資金に変わるわけではありません。
まず直近数か月の支出を確認します。毎月の家賃や食費だけでなく、年払いの保険料、税金、家電の買い替えなど、月によって現れない支出も書き出します。毎月の黒字に見えていた金額が、年単位では使い道のあるお金だった、ということは十分ありえます。
お金の行き先を、三つの箱で整理する
一つ目は、日々の生活と不意の支出を支える箱です。収入が減ったときも生活を続けるためのお金を含みます。必要な大きさは、固定費、家族、働き方、収入の安定性などで変わります。「全員が何か月分で十分」と決めるより、自分が困りそうな場面を具体的に考える方が役立ちます。
二つ目は、使う時期と目的が見えている箱です。引っ越し、進学、車の購入、住宅修繕などが入ります。数年後の支出でも、期日を延ばせないなら、その時に株価が回復していることを前提にはできません。使う時期が近づくほど、必要額を確保できているかが重要になります。
三つ目は、当面の支出から切り離して考えられる箱です。この中から、価格変動を受け入れられる範囲を検討します。ただし、箱に残った全額を株へ入れる必要はありません。預金のまま持つ部分や、ほかの資産に分ける部分があってもよいのです。
三つは役割の区分です。均等に三分割する意味ではありません。
架空の家計で、予算の出し方を試す
先ほどの120万円から、この人が生活と不意の支出用に70万円、半年後の引っ越し用に30万円を取り分けたとします。残りは20万円です。70万円はこの例の仮定であり、必要な備えの推奨額ではありません。人が変われば、この数字も変わります。
20万円残ったので、20万円分の株を買う。この結論にすぐ飛ばず、もう一段階考えます。家計上は当面使わなくても、値下がりが気になって仕事に集中できない金額かもしれません。そこで、この人がまず5万円だけを学習を兼ねた投資の候補とし、15万円を保留にする判断もあります。
| 役割 | 架空の配分 | 確認すること |
|---|---|---|
| 生活と不意の支出 | 70万円 | この人が必要と考えた仮の備え |
| 半年後の引っ越し | 30万円 | 予定を守るために取り分ける |
| 当面使わない分 | 20万円 | 全額を投資するとは限らない |
これは投資額の正解を求める計算ではなく、数字の置き場所を確認する計算です。残りがゼロなら、株の仕組みや企業の決算を学びながら、家計の余裕を作ることが先でも構いません。勉強を始めることと、今すぐ実際のお金を投じることは分けられます。
「待てる」は、時間と気持ちの両方で考える
仮に5万円の株が3万5千円になれば、評価額は1万5千円減っています。これは30%下落した架空の確認例で、損失の上限でも、よく起きる範囲という予測でもありません。もっと大きく下落したり、長く戻らなかったりすることもあります。
この時、生活費のために売る必要があるか。値下がりを埋めようとして無理に買い足したくなるか。その二つを分けて考えてみます。家計が耐えられることと、心理的に落ち着いていられることは別だからです。予算は、この両方を見ながら小さく始めることもできます。
「10年持てば必ず戻る」とは言えません。市場全体が回復しても、個別の会社は業績が悪化したままかもしれません。時間の余裕は、途中でお金が必要になって売る事態を減らす助けになりますが、企業の将来を保証するものではありません。
聞き手ここが気になる
当面使わないお金なら、全部株にしてもいいんですか?
案内役一緒に整理しよう
使う予定がないことは、判断材料の一つです。大きく値下がりした時の生活への影響と、気持ちの負担も別に考えましょう。残したり、ほかの資産と組み合わせたりする選択もできます。
毎月の積立額も、平均ではなく続けられる額へ
毎月の収支が3万円の黒字でも、その全部を積立額にすると、年払いの支出が来た月に取り崩すことになるかもしれません。年間の支出を見渡して、毎月取り分けておく金額と、継続的に投資へ回せる金額を分けます。
ボーナスや臨時収入も、必ず同じ額が入るとは限りません。収入が多い月を基準に固定額を大きくするより、収入が少ない月でも無理なく続けられるかを試します。投資を休んだり、金額を変更したりすることは失敗ではありません。生活の条件が変われば、計画も変わります。
一度決めた配分を毎日変更すると、株価のニュースに家計が引っ張られやすくなります。通常の見直し時期と、転職や引っ越しなど臨時に見直す条件を、先に書いておくと判断しやすくなります。
口座の使いやすさと、投資の中身を混ぜない
証券口座の手数料や画面の使いやすさを比較することは役立ちます。しかし、開設特典があるから投資額を増やす、非課税制度の枠が余っているから使い切る、と考えると順番が逆になります。制度やサービスは、決めた目的を実現するための道具です。
まず資金の役割を決め、次にどの資産をどの程度持つかを考え、そのうえで使う口座を比較する。この順番なら、広告やキャンペーンを見ても、自分に必要な条件を見失いにくくなります。口座の種類や税制は、この初級コースの後の回で整理します。
今日の小さな練習:三行のメモを作る
ノートに「近いうちに使うお金」「予定外に備えるお金」「当面使わないお金」の三行を書いてみてください。それぞれに金額だけでなく、そう考えた理由も添えます。分からない支出があれば、無理に数字を埋めず、確認する項目として残します。
次に、当面使わないとしたお金について、評価額が大きく減った場面を想像します。その時にも生活の予定を変えずに済むか、自分が落ち着いて保有判断を見直せるかを考えます。ここで不安が強ければ、金額を下げる、資産の組み合わせを変える、まだ買わずに学ぶ、という選択肢があります。
最後に「私は、いつ何のために使うお金を残し、いくらを検討対象にする」と一文にします。銘柄名が一つも出てこなくても、この一文ができれば第1回の準備はできています。次は、そもそも株を持つとは何を持つことなのかを、会社と株主のお金の流れから見ていきましょう。
参照した資料と、この回の例について
金融庁「資産形成の基本」(参照内容の要約)
家計管理と生活設計を起点に、目的に応じて貯蓄と投資を使い分けるという考え方を参照しています。本文の三つの箱、120万円の配分、確認練習は当サイト独自の説明です。
GPIF「分散投資の意義② 投資のリスクとは」(参照内容の要約)
運用でいうリスクを収益の変動として捉える説明を参照。本文の30%下落は理解のための仮定で、GPIFの予測や推計値ではありません。
資料確認日:2026年10月26日。一般的な仕組みを学ぶための内容です。



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