中級コース|第4回/全10回
借金が少ない会社は安心で、多い会社は危険。入口として分かりやすい考え方ですが、それだけでは見えないことがあります。同じ借入額でも、返済が来月か五年後か、現金や稼ぐ力がどれくらいあるかで状況は違うからです。
この回では、貸借対照表を「資産がいくらあるか」という一覧から、「何をいつ支払えるか」を考える資料へ読み替えます。万能な安全点数を付けるのではなく、会社が変化に耐えるための条件を調べる練習です。
同じ借入500万円でも、時間の余裕が違う
架空のA社とB社は、どちらも借入が500万円、現金が200万円です。A社は来月500万円を返す予定、B社は今後五年間に100万円ずつ返す予定とします。借入と現金だけを引き算すると同じですが、近く必要な資金は違います。
A社が必ず返済できないという意味ではありません。売掛金の回収や借り換えが決まっているかもしれません。ただ、その条件を確認する必要があります。B社も、将来の稼ぐ力が弱くなれば返済が重くなります。期限を見ると、それぞれに異なる問いが生まれます。
有価証券報告書などでは、借入金の内訳や返済予定、金利などの注記を探します。短期借入金と一年以内返済予定の長期借入金は、名称が違っても近い支払いとして合わせて考える場面があります。
| 同じ借入残高500万円でも | A社 | B社 |
|---|---|---|
| 手元現金 | 200万円 | 200万円 |
| 返済時期の仮定 | 翌月に500万円 | 毎年100万円ずつ5年間 |
| 次に読む情報 | 回収予定・借換え条件 | 毎年の資金創出・返済条件 |
現金以外の資産は、すぐ現金になるとは限らない
貸借対照表の資産には、売掛金、在庫、設備、土地、無形資産などがあります。これらの価値を全部、今日使えるお金のようには扱えません。売掛金には回収時期があり、在庫は売って回収する必要があり、設備を売ると事業を続けにくくなることもあります。
例えば「資産1,000万円、負債600万円だから400万円の余裕」と読めても、来月の支払いに使える現金が不足する可能性があります。帳簿の純資産と、短期の支払能力は別の問いです。また帳簿価額でそのまま売却できるとも限りません。
逆に、資産を多く持たずに収益を生む事業では、設備の多さだけでは強さを測れません。何を持つことが事業上必要で、何が現金へ変わるのかを、事業の特徴に合わせて読みます。
当サイト制作。数字の定義と事業の説明を行き来して確認します。
自己資本比率は、出発点にはなるが結論ではない
自己資本比率は、資産に対して自己資本がどの程度あるかを見る指標です。単純化した例で総資産1,000万円、自己資本400万円なら40%です。借入など外部の資金への依存を考える入口になります。
ただし、何%ならどの会社も安全、と一律には決まりません。業種によって資産と負債の持ち方が違い、特に金融業などは一般的な事業会社と同じ物差しだけでは読めません。同業との比較と、会社自身の過去の変化を合わせます。
比率の改善も、利益の積み上がりによる場合と、事業や資産の縮小による場合で意味が違います。分子と分母のどちらが動いたかを見ることは、この後のPER・PBR・ROEを読む際にも役立ちます。
聞き手ここが気になる
自己資本比率が高い会社なら、支払いの心配はないですか?
案内役一緒に整理しよう
その比率は資産の資金調達構成を見る指標です。資産がすぐ現金になるとは限らないので、直近の支払い時期と現金も別に確認します。
現金から借入を引くだけでは、まだ足りない
現金が有利子負債より多いかを確認する方法は、財務状態をつかむ手掛かりになります。しかし、現金のすべてが自由に使えるとは限りません。日々の仕入れや人件費に必要な分、使途に制約がある分なども考えます。
また、有利子負債に何を含めるかによって数字が変わります。リース負債などの扱いは、企業やデータサービスの定義を確認します。違う定義の数値をそのまま二社比較へ使うと、見かけの差を事業の差だと思い込むおそれがあります。
「現金が多い会社だから株が必ず割安」という結論にも飛びません。資産の状態と、株式を買う価格、事業の将来は別々に考える必要があります。財務余力の確認は、評価の一部分です。
変化に備えるなら、資金の出入りを一つ動かしてみる
架空の会社に現金200万円があり、今後一か月の入金予定が150万円、支払予定が250万円なら、単純計算の残りは100万円です。ここで入金のうち100万円が翌月へ遅れたら、残りはゼロになります。残高だけを見たときより、条件への依存が分かります。
この計算は実際の会社の資金繰り予測ではありません。公開情報だけでは日々の入出金をすべて把握できないからです。それでも、どの回収や調達に依存しているかという問いを作ることはできます。未確認の融資を、必ず借りられるお金として足さないようにします。
借り換えについては、契約済みの融資枠、返済条件、財務制限条項などの説明も材料になります。記載が難しい場合には、分かったふりで安全と結論付けず、確認できない条件として残します。
貸借対照表は、その日の写真である
期末の現金残高だけでは、一年を通じた資金の余裕は分かりません。期末直前に借り入れたため現金が増えていることも、季節商品の仕入れで一時的に減っていることもあります。まず前年の同じ時期と比べ、次に借入金やキャッシュフロー計算書の動きを確認します。
例えば現金が100万円から300万円へ増え、同時に借入金も200万円増えているなら、現金の増加だけを事業が生んだ成果とは言えません。もちろん借入れ自体が悪いわけではなく、設備を作る準備かもしれません。何に使い、いつ返し、返済原資をどこから得る計画なのかが次の問いです。
また、現金から借入金を差し引いた数字を使う場合も、借入金に何を含めたかを記録します。リース債務、使途制限のある預金、事業継続に必要な現金などを無視して、差額をすべて自由なお金と考えることはできません。簡単な指標ほど、含めたものと含めなかったものを一行添える習慣が役立ちます。
確認問題:在庫を増やして流動資産が増えたら安心?
会社の流動資産が増え、流動負債に対する比率が改善しました。増えたものは、まだ販売できていない商品在庫です。この変化だけで支払能力が高まったと言えるでしょうか。
在庫が売れ、代金を回収できる時期と条件を確認する必要があります。流動資産という分類だけで、現金と同じ使いやすさにはなりません。商品の需要や評価損の可能性も、会社の資料から調べる問いになります。
この回では、借入の額、返済期限、現金、ほかの資産の換金性を並べるメモを作ります。次は、株価や利益を比率にした指標へ進みます。数字が便利になるほど、その分母に何が入っているかが大切になります。
参照した資料と、この回の例について
資料確認日:2026年10月27日。図解・練習問題・数値例は当サイト制作です。
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