銀河の光が赤い側へずれている。その情報から、宇宙の広がりを調べられます。ただし、赤い写真なら何でも遠い銀河というわけではありません。色の印象、スペクトルのずれ、宇宙の膨張を順番につなぎます。
連載:光を追いかける、5つの不思議 / 第5回
この回の見どころ
スペクトルの赤方偏移を写真の色と区別し、宇宙膨張との関係を説明できる。
赤く見えることと、赤方偏移は同じではない
写真に赤い星が写っていても、それだけで宇宙の膨張を測れたとは言えません。天体の温度、途中の塵、撮影した波長、表示色の割り当てなども色を変えます。赤方偏移は、単に赤っぽいという印象より具体的な量です。
第3回で見たスペクトルの線には、地上の実験などで分かる基準の波長があります。その線の組み合わせが、観測では長い波長側へずれている。この比較が赤方偏移を測る入口です。
可視光では長い波長側が赤なので赤方と呼びますが、ずれた先が人の目に見える赤とは限りません。赤外線などの範囲へ移ることもあり、そこで観測できる装置が必要になります。
一つの線より、模様全体を照合する
一本の線だけを見て、これは水素の線がずれたものだと決めると、別の線との取り違えが起こり得ます。複数の特徴を合わせて、どの模様がどれだけ移ったかを調べるほうが根拠が強くなります。
光が弱い場合には、分光ではなく複数の波長帯の明るさなどから赤方偏移を推定する方法もあります。その場合と、スペクトルの線を使って確認した場合では、根拠や不確かさが異なります。ニュースの「候補」と「確認」の違いにも注目してみてください。
本記事の図は、模様の位置が移るという考え方を示す模式図です。特定の銀河の測定データではありません。実測値を見るときは、どの線をどう同定したか、誤差がどれほどあるかが重要です。
伸びるのは、光の波長
宇宙全体の膨張を表す標準的な説明では、光が遠い銀河から旅する間に空間の広がりが変わり、その光の波長も長くなります。出発時と到着時の波長を比べることで、途中の宇宙の広がりを調べます。
伸びたゴムひもに波を描く比喩は、間隔が広がるイメージには役立ちます。ただし光が物質のゴムひもに乗っているわけではありません。光は真空を伝わり、宇宙の膨張は一般相対論の時空の記述で扱います。
また、波長が長くなったから真空中での局所的な光速が遅くなるわけではありません。波長と振動数が変わることと、真空中の光速を分ける必要があります。第1回の二つの量の区別が、ここで再び役立ちます。
救急車の音のたとえは、入口まで
遠ざかる救急車の音が低く聞こえるドップラー効果は、赤方偏移を想像する入口としてよく使われます。天体の相対運動でも光の波長がずれて観測されることがあります。
しかし遠い宇宙の膨張による赤方偏移を、普通の空間を銀河が走り去るだけの図に置き換えると不十分です。宇宙論では、光が伝わっている間の空間の広がりを含めて扱います。近距離の速度の式を、遠方まで無条件に伸ばして使うことはできません。
さらに重力による赤方偏移もあります。同じ長い波長側へのずれでも、何が原因かは状況によります。赤方偏移という測定量と、その原因の解釈を分けておくと、説明の違いに混乱しにくくなります。
赤方偏移の数値は、波長の比から作る
赤方偏移を表すzは、観測した波長を基準の波長で割り、そこから1を引いたものです。たとえば基準500ナノメートルの線を1000ナノメートルで観測したなら、この単純な計算例ではzは1になります。
これは、宇宙の年齢が一歳、距離が一光年、光速の一倍で移動している、という意味ではありません。まず測っているのは波長の割合です。宇宙論的な赤方偏移として解釈する場合、出発時から到着時までの宇宙の広がりの比にも対応します。
そこから光が旅した時間や距離へ換算するには、宇宙の膨張の歴史を表すモデルとパラメータが必要です。zだけを見て、距離と年数が一つの簡単な掛け算で全部決まる、と考えないようにしましょう。

なぜ赤外線の望遠鏡で、昔の銀河を探すのか
非常に遠い銀河から出た可視光や紫外線が、旅の間に長い波長へずれ、赤外線として届くことがあります。そこで赤外線を測れる望遠鏡が、初期の銀河を調べる重要な道具になります。
これは「昔の星が全部赤い星だった」という話ではありません。出発時の光と、現在こちらで受け取る光の波長が違うという話です。どの光を受け取れる装置が必要かは、光源の性質と、そこからの旅の両方で決まります。
第1回の電磁波の地図、第3回のスペクトル、第4回の光の移動時間が、ここで一つにつながります。宇宙の写真が美しいだけでなく、遠い時代の測定資料になる理由が見えてきます。
膨張する宇宙でも、身の回り全部が伸びるわけではない
宇宙の膨張の説明を聞くと、机も自分の体も地球も一緒に大きくなっているのか、と感じるかもしれません。しかし重力や電磁気的な結びつきが重要な局所の構造を、宇宙の大規模な膨張と同じ比率で伸ばすモデルは使いません。
銀河の間の大きな尺度の振る舞いと、銀河内部や太陽系の運動は区別して考えます。また近くの天体では固有の運動も大きく、すべてが私たちから遠ざかって見えるわけではありません。
風船の表面の点が離れる比喩も、全体的な広がりを理解するためのものです。宇宙が三次元空間の中の風船そのもので、外側に必ず空気がある、といった比喩にない結論まで持ち込まないことが大切です。
考えてみる:zが二倍なら、距離も二倍?
小さな赤方偏移の範囲では、距離との関係を近似的に扱える場面があります。しかし、その近似を非常に遠い銀河にまでそのまま広げることはできません。膨張の速さは宇宙の歴史を通して一定だったと決めつけられないからです。
まず測定から得られる波長の比と、モデルを使って推定する距離を二段に分けます。新しい研究で膨張のパラメータの値が変われば、同じ赤方偏移から計算する距離や時間の解釈も影響を受ける場合があります。
それは赤方偏移の測定が無意味という意味ではありません。測定とモデルの関係を明らかにしているからこそ、どこに不確かさがあるかを比較できます。宇宙の距離を読むときは、数字の大きさと一緒に、その数字がどう作られたかも楽しんでください。
遠い光を読むことは、複数の問いをつなぐこと
光は何の仲間か。なぜ空の色は変わるか。星の成分はなぜ分かるか。過去はどう見えるか。この五回で使ってきた波長、光と物質、伝わる時間という道具が、宇宙の広がりを調べる話につながりました。
赤方偏移は、目に見える色の印象を大きな物語へ飛躍させたものではありません。基準と観測を比べ、モデルで意味を確かめる手順があります。その手順を知ると、次の宇宙ニュースでも「何を測り、そこから何を推定したか」という楽しみ方ができます。
少し考えてみる
問い
基準の波長が500ナノメートルの線を1000ナノメートルで観測しました。zはいくつですか。また、その値だけで距離が一光年と分かりますか。
考え方
z=1000÷500−1=1です。これは波長の割合から作る量で、一光年という距離を意味しません。宇宙論的な距離や時間へ換算するには膨張のモデルなどが必要です。
出典を読む:観測から分かること
NASA「Hubble Cosmological Redshift」(参照内容の要約)
宇宙の膨張による波長の伸びと、スペクトルを用いた測定を参照しています。
NASA JPL「Math of the Expanding Universe」(参照内容の要約)
赤方偏移を波長の比から計算する考え方を参照しています。500と1000の数値例は実測ではなく当サイトの練習問題です。
NASA「Early Universe」(参照内容の要約)
遠い初期の銀河の光を赤外線で観測する理由の資料です。
出典確認日:2026年10月25日。引用文は枠と出典名で区別しています。図解・数値の練習例は当サイト制作で、実測データを示す場合は別途その旨を記しています。
光を追いかける、全5回
第3回:星へ行っていないのに、なぜ成分が分かる?光の指紋を読む
→ 第5回:遠い銀河の光は、なぜ伸びる?赤方偏移と宇宙の広がり



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