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光より速く遠ざかる銀河がある?宇宙膨張と光速のルール【宇宙の広がり3】

離れた銀河と広がる距離をイメージした挿絵。観測画像ではありません。 宇宙と物理
離れた銀河と広がる距離をイメージした挿絵。観測画像ではありません。
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宇宙の広がりと境界:大人の疑問、全5回|第3回

光の速さを越せないはずなのに、宇宙には光より速く遠ざかる銀河があるという。二つの説明が同時に正しいなら、どこで意味が変わったのでしょう。答えは「相対性理論には例外がある」で済ませることではなく、速さをどう定義したかにあります。

近くで測る速さと、遠方までの距離の変化

相対性理論が課す光速の制限は、近くで測る物体や情報の伝達速度に関わります。隣を走る宇宙船が、その場の光を追い越していくわけではありません。一方、宇宙論の後退速度は、ある宇宙時刻で定義した遠方までの距離が、時間とともにどれだけ変化するかという量です。

遠く離れた場所の時計をどうそろえ、どんな距離を使うかには、時空の幾何学が入ります。小さな実験室で二台の車の速さを比べるのと、宇宙の広い範囲を一枚の座標で扱うのは同じ操作ではありません。「速度」という同じ名前だけで、同じ制限をそのまま当てはめると混乱します。

遠いほど、距離の増え方が大きくなる

単純化した宇宙論では、膨張の流れに乗る銀河の後退速度はv=H×Dと表せます。Dは同じ宇宙時刻で測る物理的な距離、Hはその時刻の膨張率です。距離が2倍なら増え方も2倍になります。Hは一般には時間とともに変化します。

説明用にH=70km/s/Mpcを使えば、1,000Mpc先は70,000km/s、5,000Mpc先は350,000km/sという計算になります。後者はcを越えます。このHは最新の決定値を主張する数字ではなく、関係を見るための仮定です。宇宙の膨張率の測り方には現在も研究課題があり、この例から精密な宇宙年齢や境界を求めることはできません。

聞き手ここが気になる

後退速度が光速を越える銀河を見たら、相対論の反例では?

案内役一緒に整理しよう

いいえ。その後退速度は、広域的な宇宙の距離の変化です。目の前で測る局所的な情報速度とは違います。またハッブル球の外からの光も、膨張史によって到達し得ます。

光も、その場ではちゃんと光速で進む

こちらへ向かう光を考えてみます。光は通過する近傍で測ればcで進みます。しかし光と私たちの間の宇宙的な距離の変化も加わるため、光までの距離が最初は増える場合があります。

その後、膨張率や光の位置が変化して、私たちまでの距離が減る領域へ入れば、光は到着できます。したがって「出発時に後退速度がcを越えていたなら、その光は永久に届かない」と一律には言えません。光が出発してから到着するまでの全経路を、時間とともに変わる宇宙の中で追う必要があります。写真一枚のように、ある瞬間の速度だけで将来を決めるのは不十分です。

光より速く遠ざかる銀河がある?宇宙膨張と光速のルールを説明する独自図解。詳細は本文に記載。
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三つの境界を、同じものにしない

後退速度H×Dがcになる距離c/Hで考える境界を、ハッブル球と呼びます。これは、その時刻の膨張率で決まる境目です。一方、粒子的地平線は、過去から今までに情報が届き得た範囲に関わります。観測可能な宇宙を考えるときの境界です。

さらに宇宙の事象の地平線は、今から発した信号が将来いつか届くかという未来の限界です。その有無や大きさは未来の膨張史に依存します。現在の標準的な加速膨張のモデルでは重要になりますが、ハッブル球と同じものではありません。「c/Hの外だから全く見えない」という説明は、この三つを混ぜてしまっています。

過去の姿が見えることと、今から話せること

望遠鏡で銀河が見えると、そこへメッセージを送り、返事をもらえるような気がします。しかし私たちが受け取ったのは、その銀河の過去の光です。今そこで出した信号が未来の地球へ届くかどうかは、別の問いです。

長い時間をかけて届いた手紙を受け取ったとしても、今の送り主まで同じ条件で返送できるとは限らない、というイメージです。ただし宇宙では単なる住所変更ではなく、時空の因果構造が問題になります。見える、行ける、今から通信できる。この三つを同じ意味で使わないと、宇宙の孤立した未来についての話も読みやすくなります。

ここまでの見取り図
01ハッブル球今のHで、後退速度がcとなる境界
02粒子的地平線過去から今までに届き得た信号の範囲
03事象の地平線今から未来へ届く信号の限界(モデル依存)

説明用の整理です。数値例の条件や模型の限界は本文で確認してください。

赤方偏移を、普通のドップラー効果だけで読む?

銀河の光が長い波長へずれる赤方偏移は、膨張を調べる重要な手がかりです。しかし大きな宇宙論的赤方偏移を、平らな時空を走る物体の特殊相対論的ドップラー効果だけで速度へ換算すると、距離や膨張の記述を取り違えます。

標準的な宇宙論では、光の波長の伸びは出発時と到着時のスケール因子の比に関係します。銀河自身の局所的な運動も重なるため、観測した数字から何を推定しているかを明確にする必要があります。日常の救急車の音の例は入口として便利でも、そのまま宇宙全体の距離計算へ使える万能の模型ではありません。

一つの瞬間だけで、光の到着を判断しない

川を上る小舟を想像すると、向かいの流れが強い場所で岸からの距離が増える状況を描けます。ただし宇宙膨張は物質の川ではなく、これは距離の変化を考える補助的なたとえです。重要なのは、流れの強さを旅の全区間で固定してよいとは限らないことです。

宇宙ではHも、光の位置も時間とともに変わります。ある瞬間に後退速度がcより大きいと分かっても、それだけでは光の将来の経路が決まりません。未来を予測するには、膨張史を含む模型が必要です。逆に、現在見えている光の出発地点の昔の後退速度だけを調べても、今発する新しい信号が届くかは別途計算する必要があります。

この違いを一枚の静止図だけで表すのは難しいため、図のラベルには「今」「過去」「未来」を明記しています。同じ丸い境界を描いていても、答えている問いが違います。

ハッブル定数の単位を読むと、性質が見える

70km/s/Mpcという単位は、1Mpcの距離につき毎秒70kmの距離変化、という意味です。Mpcはメガパーセクで、約326万光年です。速さだけの単位km/sに、距離で割る部分が付いています。つまりHそのものを「宇宙の速さ」として光速と直接比較することはできません。

HにDを掛けて初めて、特定の距離に対する後退速度になります。遠い場所ほど値が大きくなる理由は式だけでなく単位からも読み取れます。「宇宙が秒速いくつで膨らむか」と聞くときには、どの距離の変化を指すかも添えると、科学的に答えやすい問いになります。

光速のルールを破る抜け道ではない

遠方の後退速度がcを越えることは、近くの相手へ光より早く情報を送る通信機の作り方を与えません。宇宙膨張を利用すれば隣の星へ瞬時に移動できる、ということでもありません。局所的な光速の制限と、広域的な距離の変化を別の量として扱うことで、二つの説明は両立します。

「宇宙は光より速い」と一言で言うより、「どの時刻の、どの距離の増え方がcを越えるのか」と尋ねる方が正確です。少し面倒ですが、その問い方ができると、宇宙の数字は急に分かりやすくなります。次回は速度から一歩離れ、毎晩見える暗い空そのものが、宇宙の歴史をどう語るのか考えます。

調べるときに参照した資料

Davis & Lineweaver(2004):Expanding Confusion(参照内容の要約)

粒子的地平線・事象の地平線・ハッブル球の混同を整理し、超光速の後退と観測可能性が両立することを示す研究論文です。本文ではその区別を読み物向けに整理しました。

資料を確認する ↗

Einstein Online:Glossary / speed of light(参照内容の要約)

一般相対論における光速上限の局所的な意味を確認しました。H=70の表は概念を説明する独自の仮定計算です。

資料を確認する ↗

資料確認日:2026年10月27日。参照内容は当サイトの言葉で要約し、本文の例・計算・図解は独自に構成しています。

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