上級コース|第4回/全10回
一年後にもらう100と、今日使える100は、同じ数字でも条件が違います。待つ時間があり、将来の見積もりには不確実性もあります。DCFは、将来生まれると見積もった資金を現在の価値へ換算し、足し合わせる方法です。計算機が正解の株価を教える仕組みではありません。
この回では一期間の計算から始め、何年も続く事業へ広げます。難しい式の暗記より、どの仮定を変えると結果が動くかを読み取ることが目標です。数値はすべて学習用の仮定で、特定企業の推奨価格ではありません。
一年後の110を、割引率10%で戻す
一年後の110を10%で割り引くと、110÷1.10=100です。二年後の121なら121÷1.10の二乗=100です。二年分を単純に20%引くのではなく、期間ごとに掛け算された分を戻します。
ここで使う割引率は、将来の資金を比較するために置く要求収益率です。自分が必ず受け取れる利回りではありません。高い割引率を使えば、同じ将来資金でも現在価値は小さくなります。リスクが大きい会社だから利益も必ず大きい、という意味にもなりません。
| 資金を受け取る時点 | 額 | 割引率 | 現在価値 |
|---|---|---|---|
| 一年後 | 110 | 10% | 100 |
| 二年後 | 121 | 10% | 100 |
| 五年目末の継続価値 | 1,700 | 8% | 約1,157 |
資金の種類と、割引率の組み合わせをそろえる
事業全体に帰属する資金を評価する方法と、負債への支払いなどを考慮した株主向けの資金を評価する方法があります。前者の代表的な組み合わせはFCFFとWACC、後者はFCFEと株主資本コストです。名称よりも、誰に帰属する資金を計算しているかを確かめます。
前の回の税引後営業利益から再投資を引く例は、事業側の資金を考える入口でした。そこへ借入返済を混ぜて株主向けの資金に変えたのに、割引率は事業全体用のままにすると、前提がずれます。借入金を後で差し引く処理とも重複しかねません。
通貨と物価の扱いもそろえます。円の名目金額を見積もるなら、その通貨・名目ベースに整合する率を使います。売上には物価上昇を入れ、率は物価の影響を除いたものを使う、といった混在を避けます。
当サイト制作。計算結果だけでなく、前提と未確認の点を残します。
五年先で、会社が終わるわけではない
五年分の資金を予想しただけでは、六年目以降も事業が続く価値が抜けます。その先をまとめて扱うのが継続価値です。永久に一定の率で成長するモデルでは、最終予測年の翌年の資金を、割引率から成長率を引いた値で割ります。
五年目末の継続価値を計算するなら、使うのは六年目の資金です。六年目の資金102、割引率8%、成長率2%という仮定なら、102÷(0.08−0.02)=1,700です。これは五年目末時点の値なので、さらに1.08の五乗で割って今日へ戻します。約1,157です。
ここで五年目までの資金の現在価値を加えます。1,700を今日の価値としてそのまま足したり、五年目の資金を二度数えたりしないよう、いつの時点の数字かを書き添えましょう。
成長率を少し上げるだけで、大きく変わる理由
翌年の資金を便宜的に102で固定した感度の例では、割引率8%、成長率1%なら約1,457、2%なら1,700、3%なら2,040です。分母が小さくなるため、継続価値は大きく動きます。これは完全な事業予想ではなく、式の感度だけを切り出した比較です。
実際には成長率を変えれば、必要な再投資や翌年の資金も変わるはずです。成長だけを上げ、支出を固定したまま価値が高くなると喜ぶのは不十分です。また永久成長率は、有限期間の高成長とは違います。いつまでも経済全体より速く成長するような仮定は整合しません。
割引率が成長率を上回ることも、この永久成長式の必要条件です。二つが同じ、あるいは成長率の方が高い場合に、出てきた異常な数字を評価額として使ってはいけません。モデルの使い方が条件を外れています。
聞き手ここが気になる
計算で一株の価値が出れば、それが正しい価格ですか?
案内役一緒に整理しよう
入力した仮定の下での値です。成長、再投資、割引率などを変えると動きます。結果の細かさより、条件と幅を説明できることが大切です。
一つの価格より、仮定の地図を見る
結果を一円単位まで表示しても、売上成長率や利益率が粗い仮定なら精度が高いわけではありません。売上の伸び、利益率、再投資、割引率などを一つずつ変え、どこに結果が敏感かを見ます。敏感な項目は、次に調べる価値が高い情報です。
例えば店舗数の計画は比較的確認しやすくても、五年後の利益率は競争や原価で変わります。そこへ幅を置き、弱いケースでも資金が続くかを見ます。強気・標準・弱気という名前を付けるだけでなく、各ケースがどんな事業の状態を表すか説明します。
計算表の最後には、予測期間の価値と継続価値の割合を分けて残しましょう。継続価値への依存が大きいなら、遠い将来の仮定が結論を左右していると分かります。それを隠さず読むことが、DCFを使う意味の一つです。
予想の終わりだけ、急に別の会社にしない
明示的に予測した五年目まで高成長・高収益で、六年目から突然安定成長へ切り替える場合、その間の変化を説明する必要があります。競争が落ち着くのか、投資が一巡するのか、利益率が平常へ戻るのか。終点の数字だけを便利に置かないようにします。
安定成長期に入っても、設備の更新や一定の再投資は必要です。成長率をプラスに置きながら、以後の投資をすべてゼロとする仮定は、事業によっては不整合になります。成長、収益性、投資、リスクを一組として点検します。
また、一つのモデルにすべての会社を押し込む必要はありません。金融機関、資源事業、開発段階の企業などでは、資金の定義や評価の難しさが変わります。一般事業会社の単純な例を理解することと、どの会社にもそのまま使えることは別です。分からない対象で計算を進めるより、適用範囲を明示して止める判断もできます。
確認問題:割引率を下げれば、投資が安全になる?
同じ予想で割引率を下げると計算上の価値は上がります。しかし会社の事業が安全になったわけではありません。入力を変えた理由を説明できなければ、欲しい結論に合わせた数字の操作になってしまいます。
ノートには率の根拠と変動させた範囲を残します。次の回では、事業全体の価値を計算した後に、負債や現金、株数を整理して一株の価値へ進む際の注意点を扱います。
参照した資料と、この回の例について
Aswath Damodaran「Discounted Cashflow Valuation」(参照内容の要約)
株主向けと事業向けの資金に、それぞれ整合する割引率を使う原則を参照しました。古い講義中の経済予測や料率を現在の数値としては使っていません。
Aswath Damodaran「Terminal Value」(参照内容の要約)
継続価値が長期成長率や再投資の仮定に依存する点を参照しました。102を固定した感度例は当サイトの独自計算で、完全な事業モデルではありません。
資料確認日:2026年10月27日。計算・図解・確認問題は当サイト制作です。
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