中級コース|第5回/全10回
PERが低いから割安、ROEが高いから優良。指標を覚えると会社をすばやく比較できますが、その便利さには落とし穴もあります。同じ名前の指標でも、実績と予想、期末と平均、連結と単体が混ざれば比較の意味が変わります。この回は三つの指標を、式の分子と分母へ戻して読みます。
目標は、買うための合格点を決めることではありません。数字が変わった理由を説明し、「この比較は条件がそろっているか」と一度立ち止まれるようになることです。
PER:株価は、一株利益の何倍か
株価1,500円、一株あたり利益100円ならPERは15倍です。1,500円÷100円という計算で、価格と利益の関係を表します。ただし、100円が前年度の実績なのか、今年度の会社予想なのかを確認する必要があります。
株価が同じでも、利益予想が50円に下がるとPERは30倍になります。逆に、資産売却など一時的な利益で一株利益が200円になれば、実績PERは7.5倍です。低い数字の理由が、本業の安定した成長とは限りません。
赤字の場合にマイナスのPERを計算して、正の低いPERより割安だと並べることにも意味はありません。分母がゼロに近いと数字は極端になり、通常の倍率比較が難しくなります。指標が使いにくい条件も知っておきます。
| 株価1,500円のとき | 一株利益 | PER |
|---|---|---|
| 利益の基準A | 100円 | 15倍 |
| 利益が減った基準B | 50円 | 30倍 |
| 利益が増えた基準C | 200円 | 7.5倍 |
PBR:価格と、帳簿上の持分を比べる
株価1,500円、一株あたり純資産1,000円ならPBRは1.5倍です。利益という期間の数字に対して、こちらは貸借対照表の持分という時点の数字を使います。何年何月末の資料かを確認します。
PBRが1倍を下回っても、会社を解散すれば必ず購入額以上の現金が戻るとはいえません。帳簿価額どおりに資産を売れるとは限らず、清算には費用や時間もかかります。事業が今後損失を出す可能性などを市場が織り込んでいる場合もあります。
また、人材やブランド、研究開発の成果などは、帳簿上の資産だけでは十分に表れない場合があります。設備の重い業種と、資産をあまり持たない業種で、同じPBRを同じ意味だと考えないことが大切です。
ROE:自己資本に対して、どれだけ利益を出したか
ROEは、当期純利益を自己資本で割る指標です。一般的には期首と期末の自己資本の平均を使います。自己資本の平均が1,000万円、当期純利益100万円なら10%です。実際には親会社株主に帰属する利益など、対応する範囲をそろえます。
利益が増えるとROEは高くなりますが、分母の自己資本が小さくなることでも高くなります。還元や損失で自己資本が減った結果なら、利益を生む力がそのまま強くなったわけではありません。借入への依存が増えていないかも別に点検します。
前回扱った財務余力の確認が、ここでつながります。効率を示す率だけで、支払能力や事業の継続性を説明できるわけではありません。高いROEを見つけたら、利益率、資産の使い方、資金調達の構成へ分けて考えます。
当サイト制作。数字の定義と事業の説明を行き来して確認します。
三つをつなぐときは、時点のずれに注意
同じ利益、同じ自己資本、同じ株数を使う単純化した条件では、PBR=PER×ROEという関係が成り立ちます。ROE10%は0.10として計算し、PER15倍ならPBR1.5倍です。式のつながりを見ると、価格・利益・持分という三つの関係を整理できます。
しかし、実際の画面ではROEが平均自己資本を使い、PBRが期末自己資本を使い、PERが会社予想利益を使っていることがあります。そのまま掛けても一致しない場合があります。間違いと決めつけず、各数字の定義を読みます。
指標の一覧表を作るなら、列に「実績/予想」「対象期間」「基準日」を付けておくと便利です。数字だけを集めるより手間はかかりますが、後から何を比較したかを説明できるようになります。
聞き手ここが気になる
PERが低い順に選べば、割安な会社を買えますか?
案内役一緒に整理しよう
利益が一時的に膨らんでいる場合も、減益が予想される場合もあります。倍率が低く見える理由を事業と利益の中身へ戻って調べます。
同じPERの二社でも、期待される中身は違う
A社とB社がともにPER15倍でも、A社は利益が安定し、B社は好況時だけ利益が大きくなる会社かもしれません。将来の成長、利益の振れ、事業の持続性などが違えば、同じ倍率だけで同じ条件の投資とはいえません。
逆にPERの差には、成長期待の差だけでなく、一時的な利益や会計上の違いが影響している場合もあります。「市場はA社を高く評価している」という観察と、「A社は必ず優れている」という結論を分けます。価格が示す期待も、後で変わり得ます。
比較する際は、まず同じ会社の過去と見比べ、何が変わったかを調べます。そのうえで近い事業を持つ会社と比べると、比率の差を説明する問いが作りやすくなります。
同じ倍率でも、利益の時点が違えば別の比較になる
A社のPER15倍が今期会社予想を使い、B社のPER12倍が前期実績を使っていたら、そのまま順位を付けられません。B社が前期に特別な売却益を計上していれば、実績の利益が一時的に大きくなっている可能性があります。まず同じ日付の株価と、同じ種類の利益を使った指標かを確かめます。
一株利益が赤字の場合にも注意が必要です。マイナスのPERを「とても安い」とは読みません。利益を基準にした倍率として比較しにくい状態なので、赤字の理由、手元資金、黒字化に必要な条件など、別の確認へ戻ります。PBRにも、帳簿上の資産がその価格で売れる保証はないという限界があります。
画面に出る指標をノートへ写すなら、数字だけでなく株価の日付、利益の対象期、実績か予想か、単体か連結かを添えましょう。後から数値が変わっても、株価が動いたのか、予想が変わったのかを追いやすくなります。
確認問題:PERが急に半分になった
株価が変わらないのに、実績PERが20倍から10倍になりました。会社が公表した利益には、大きな不動産売却益が含まれています。すぐに半額の割安さになったと言えるでしょうか。
まず分母の利益が一時的に増えていることを確認します。その利益が来年も続くか、通常の事業からどれくらい利益を生んでいるかは別です。売却益を機械的に全部除けば正しいとも限らないため、継続する事業と売却した資産の関係も調べます。
指標は結論を出す機械ではなく、調べる場所を教える道具です。ノートには数値と定義、変わった理由、まだ分からない点をセットで残しましょう。次は、配当と自社株買いを利益や資金に結び付けて読みます。
参照した資料と、この回の例について
資料確認日:2026年10月27日。図解・練習問題・数値例は当サイト制作です。
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