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宇宙はいつ始まった?約138億年前と分かる理由をたどる

時間とともに格子の間隔が広がる宇宙膨張の概念図 宇宙と物理
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宇宙の年齢は約138億年、とよく聞きます。でも、その場に時計を置いていた人はいません。地球も太陽も存在しなかった時代のことを、いったいどうやって調べるのでしょうか。

宇宙の年齢は、遠い銀河の光や、初期宇宙から届く電波などを観測し、それらを説明できる宇宙のモデルから推定します。一つの天体に年齢が刻まれているのではなく、いくつもの証拠を照らし合わせて、宇宙の歴史を復元しているのです。

そして、「約138億年前までさかのぼれる」と「宇宙がなぜ生まれたかまで分かった」は同じではありません。どこまでが観測で支えられ、どこから先が未解明なのかを分けると、この数字の意味がはっきりしてきます。

約138億年は、どういう意味の年齢?

現在の標準的な宇宙論では、宇宙は初期の高温・高密度の状態から膨張し、冷えてきたと考えます。この膨張の歴史をたどって得られる宇宙の年齢が、約138億年です。ESAの宇宙望遠鏡Planckによる宇宙マイクロ波背景放射の観測は、この推定の重要な根拠になっています。Planckの主な成果:ESA

ここでの「年齢」は、私たちの日常の誕生日のように、最初の瞬間を直接撮影して日付を確定したものではありません。観測値と重力理論を組み合わせ、宇宙の平均的な膨張を記述するモデルの中で求めた時間です。

そのモデルを極限までさかのぼると、非常に高温・高密度の状態に行き着きます。ただし、最初の瞬間まで現在の理論をそのまま使えると確認できたわけではありません。宇宙の年齢の推定と、時間そのものの始まりについての主張は、慎重に分ける必要があります。

最初の証拠は、銀河どうしの距離が広がっていること

遠い銀河の光を調べると、多くの場合、光の波長が長くなる側へずれています。これを「赤方偏移」と呼びます。原子が作る特徴的な光の線を基準にすると、元の波長からどれくらい伸びたかを測れます。

十分に大きなスケールで平均すると、遠い銀河ほど大きな赤方偏移を示す関係が見つかります。宇宙全体の膨張は、この観測を説明します。光が進んでくる間にも空間のスケールが変わり、その波長も伸びると考えるのです。初期の銀河と宇宙論的赤方偏移:NASA

膨張を過去へたどれば、銀河の間隔は今より小さくなります。物質や放射はより密集し、温度も高かったはずです。今の宇宙だけを眺めていても、過去の宇宙がどのような状態だったかを考える入口になります。

ただし、すべての銀河が例外なく私たちから遠ざかるわけではありません。近くの銀河には、互いの重力による固有の運動があります。地球や太陽系、銀河のように重力などで強く結び付いた構造も、宇宙の平均的な膨張と同じ割合で伸び続けるわけではありません。

膨張しているなら、爆発の中心はどこにある?

ビッグバンという名前から、何もない広い空間の一点で爆発し、破片が四方へ飛び散った様子を想像しがちです。しかし、標準的な宇宙の膨張は、そのような空間の中の爆発とは違います。

よく使われる例えに、伸びるゴムの上の目印があります。ゴム全体を伸ばすと、どの目印から見ても、ほかの目印が離れていきます。ある目印を「ここだけが膨張の中心だ」と選ぶ必要はありません。

ただし、ゴムの例えには端や外側があり、実際の宇宙も同じだと決めつけてはいけません。この例えで伝えたいのは、どの場所を基準にしても大きなスケールで距離が広がり得るという点だけです。

宇宙が膨張していることから、宇宙全体の外側に空き地があるとか、宇宙に必ず端があるとかは結論できません。宇宙全体が有限か無限かという問題も、観測できる範囲の大きさとは別です。ビッグバンと観測の範囲:NASA Webb Q&A

等間隔に並んだ銀河の点を、時刻の違う二つの図で比較し、銀河の大きさではなく間隔が増えることを示す模式図。
一様な膨張を平面に置き換えた模式図です。切り取った図の中心が宇宙の中心という意味ではありません。重力でまとまった銀河や太陽系まで、この図のように膨張するわけではありません。

二つ目の証拠は、空全体に残る「昔の宇宙の光」

初期の宇宙は、高温の粒子と光が満ちた状態でした。自由な電子がたくさんあり、光は頻繁に散乱されるため、遠くまで真っすぐ進みにくい状態です。霧の中で向こうが見えない様子に少し似ていますが、原因は水滴ではなく、電子などとの相互作用です。

膨張によって宇宙が冷え、誕生から約38万年のころになると、電子と原子核が結び付いて中性の原子を作れるようになります。光が散乱されにくくなり、宇宙を長い距離にわたって進めるようになりました。

そのころから旅を続けている光を、現在の私たちは「宇宙マイクロ波背景放射」、略してCMBとして観測します。膨張で波長が引き伸ばされ、現在では約2.7ケルビンという低い温度の熱放射に相当するマイクロ波になっています。CMBと宇宙の進化:NASA

これはビッグバンの瞬間そのものの写真ではありません。約38万年たった宇宙の状態を伝える光です。それでも、人間の歴史どころか、星や銀河が本格的にできるより前の宇宙を調べられるという意味で、非常に強い手掛かりになります。

初期の高温高密度状態、約38万年後の光が進みやすくなる時代、約138億年後の現在をつなぐ宇宙史の模式図。
時間の間隔は実際の比率ではありません。宇宙背景放射は主に約38万年後に自由に進み始めた光で、宇宙の膨張に伴って波長が伸び、現在はマイクロ波として観測されます。

昔の光の模様から、どうやって年齢を計算するの?

CMBはどの方向でもほぼ同じ温度ですが、ごく小さな温度の違いがあります。このむらの大きさや、空の上でどのくらいの角度の模様が多いかには、初期宇宙の物質や光の状態が刻まれています。

初期の宇宙では、重力による集まりやすさと、光の圧力による押し返しが関わり、物質と光の分布に振動が生じました。その名残を、現在のCMBの模様として調べます。模様は単なる斑点ではなく、宇宙の中身と膨張の歴史を測るための情報なのです。

研究者は、普通の物質、暗黒物質、暗黒エネルギーなどの割合や、膨張の速さを変えたモデルで、観測される模様を予測します。そして実際の観測に最もよく合う組み合わせを求め、そのモデルの宇宙が現在まで進むのに要する時間を計算します。

このため、CMBの温度を一つ測れば、そのまま年齢が出るわけではありません。膨張の観測なども照合し、理論と複数の測定値がつじつまの合う歴史を作るかを調べています。Planckが推定した宇宙の成分:ESA

今の膨張速度から逆算するだけでは足りない

遠ざかる速さと距離が分かれば、「距離÷速さ」で出発時刻が分かりそうです。実際、現在の膨張率の逆数は、宇宙の年齢と同程度の時間の目安になります。

しかし、その計算には「ずっと同じように動いていた」という仮定が隠れています。宇宙の膨張の仕方は、歴史を通じて一定ではありません。物質や放射の重力による効果も、暗黒エネルギーによる効果も、時代によって重要さが変わります。

歩く速度が途中で変わった旅を、最後の速度だけで逆算できないのと似ています。宇宙の場合は、過去の膨張の仕方をモデルで計算し、その全体を積み重ねて年齢を求めます。「約138億年」は、その歴史を含めて得られた推定です。Planck 2018年観測結果・宇宙論パラメーターの論文

三つ目の証拠は、水素やヘリウムの割合

初期宇宙が非常に高温・高密度だったなら、初めの数分ほどの間に軽い原子核を作る核反応が進んだはずです。その後、宇宙が膨張して冷えると、反応の進み方も変わります。

この計算から、水素が大部分を占め、かなりのヘリウムと、少量の重水素などが残るという予測ができます。重水素やヘリウムなどの観測は、高温の初期宇宙という描像を確かめる独立した手掛かりになります。炭素や酸素など、多くの重い元素は、その後の恒星の内部や恒星に関連する現象で作られます。ビッグバンと軽元素の証拠:NASA用語集

すべての元素について問題が完全に片付いているわけではありません。例えば原始リチウムの予測と観測には、知られた不一致があります。原始リチウムの問題を扱う研究解説:ESO(PDF)一つの一致だけで理論を信じるのでも、一つの未解決問題だけで全体を捨てるのでもなく、どの証拠がどの説明を支持しているかを比較していきます。

古い星や遠い銀河は、別の方法で歴史を確かめる

宇宙は、その中にある星より若くはなれません。古い星の明るさや色、進化のモデルから見積もった年齢は、宇宙の年齢に対する下限の目安になります。星の年齢の推定にも誤差があるので、数字を一つ取り出して即座に矛盾だと決めることはできません。

また、遠い銀河からの光は、届くまでに長い時間をかけています。遠方を見ることは、過去の状態を見ることでもあります。望遠鏡でさまざまな時代の銀河を調べれば、宇宙の中で星や銀河が育ってきた順序を点検できます。

ただし、地球から何光年離れているかと、光が何年間旅をしたかは、膨張する宇宙では単純に同じ数にはなりません。光がこちらへ来る間にも距離が変わるためです。ここでも、宇宙の膨張を含めて考える必要があります。

Webb宇宙望遠鏡が観測した銀河団SMACS 0723と、その周囲に広がる多数の遠方銀河。
Webb宇宙望遠鏡の「最初のディープフィールド」。遠方の銀河から届く光は、過去の宇宙を調べる手掛かりになります。赤外線観測を可視色で表現した画像。Credit: NASA, ESA, CSA, STScI。画像の出典

「ビッグバンの前」と「無からの誕生」は、まだ別の問い

高温の初期宇宙を支持する証拠があることは、「何もないところから宇宙が生まれた仕組み」まで観測できたという意味ではありません。ビッグバン以前を語る理論も、時間の始まり自体を考え直す理論もありますが、どれか一つが最終的な答えとして確定したわけではありません。

非常に初期に急激な膨張があったと考える「インフレーション」も、初期宇宙の性質を説明する有力な枠組みです。ただし、その原因や具体的な仕組みには未解明な点があります。観測に支えられた高温の膨張史と、そのさらに前を説明する仮説は、同じ確かさではありません。

現在の膨張率にも、異なる測定方法の間で値が一致しない「ハッブル・テンション」と呼ばれる問題があります。標準的な宇宙論は多くの観測をよく説明しますが、すべての疑問を解決し終えた完成品ではないのです。ハッブル定数と測定間の不一致:NASA

宇宙の年齢は、たくさんの証拠をつないだ答え

約138億年という数字を支えるのは、一つの「証拠写真」ではありません。銀河の赤方偏移、CMBの細かな模様、軽い元素の割合、星や銀河の歴史などを、同じ宇宙の物語として説明できるかが問われています。

ここまで分かることと、まだ分からないことが並んでいるのが宇宙の面白さです。誕生の瞬間を見た人はいなくても、現在に残る痕跡から歴史をたどれる。そして、その先の「なぜ宇宙があるのか」は、今も開かれた問いとして残っています。

銀河の赤方偏移、宇宙背景放射の模様、軽い元素の割合を宇宙モデルで照合する推論の流れ。
背景放射の点や元素の丸は概念を示す記号で、実測データや正確な組成比ではありません。年齢は主に膨張史と背景放射などをモデルに当てはめて推定し、元素の割合などで初期宇宙像の整合性も確かめます。

この疑問を、本でもう少し掘り下げるなら

「昔の光の模様から、どうして宇宙の年齢まで分かるの?」が一番気になった人には、宇宙マイクロ波背景放射を主役にした本が次の一歩になります。

宇宙の始まりに何が起きたのか ビッグバンの残光「宇宙マイクロ波背景放射」

『宇宙の始まりに何が起きたのか』は、背景放射に残る温度のゆらぎと、それを調べる観測・研究を扱う本です。この記事で触れたCMBから宇宙の歴史を読み解く話を、研究の過程も含めて掘り下げたい人の候補です。

杉山直/講談社ブルーバックス。出版社の案内で内容・目次を確認する

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この記事を読んだ方のコメント

  1. […] この背景放射がなぜ宇宙の年齢の手掛かりになるのかは、宇宙が約138億年前に始まったと分かる理由の記事で詳しく扱っています。実際の宇宙の希薄な場所と、理論で考える理想的な真空は、同じものとして置き換えないほうが理解しやすくなります。 […]

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