時間と相対性理論:日常から考える全5回|第4回
E=mc²。意味は曖昧でも、見覚えのある式ではないでしょうか。原子力や巨大な爆発だけの話に見えますが、日差しや充電した電池にも関係します。大切なのは、「物質は全部エネルギーだから何でも爆発する」と飛躍せず、どのまとまりのエネルギーを数えているかを確かめることです。
止まっている物体にも、エネルギーがある
このページではmを静止質量、E₀を静止エネルギーとして、E₀=mc²と書きます。机の上の物体が移動していなくても、質量に対応するエネルギーを持つ、という関係です。c²は質量の単位とエネルギーの単位を結びつける大きな換算係数です。
動いている粒子の全エネルギーまで、いつもE=mc²だけで計算するのではありません。運動量pを含む関係はE²=p²c²+m²c⁴です。静止していればp=0なのでE=mc²になります。光子は静止質量0でも運動量を持ち、E=pcです。「光には質量がないからエネルギーもない」という結論にはなりません。
部品を足した重さと、完成品の重さが違う
原子核を構成する陽子と中性子を、ばらばらに用意したとします。それらが安定した原子核へ結びつき、外へエネルギーを放出すると、できた原子核の質量は部品の質量の単純な合計より小さくなります。この差が質量欠損です。
逆に原子核を部品へ引き離すには、エネルギーを与える必要があります。その必要量が結合エネルギーです。安定して結びついた状態は、ばらばらの状態よりエネルギーが低い。その低さが、系の静止質量の差にも表れます。部品が何個あるかだけでは、完成したまとまりの質量は決まらないのです。
聞き手ここが気になる
エネルギーと質量が同じなら、光にも静止質量があるの?
案内役一緒に整理しよう
光子の静止質量は0ですが、エネルギーと運動量があります。E=mc²は静止状態の関係です。動くもの全般では運動量も含めて考え、光子にはE=pcを使います。
太陽は「燃えている」のか
太陽の中心では、軽い原子核からより強く結びついた原子核へ進む核融合の過程が起きています。代表的には水素からヘリウムへ進む一連の反応です。反応の前後で、生成物と放出された粒子・放射のエネルギーを全て数えると、収支がつながります。
木を燃やす化学反応と同じ仕組みではありません。核反応では原子核の結合状態が変わります。ただしE=mc²という式だけが、どんな核反応が起こりやすいかまで教えるわけではありません。反応の仕組み、温度、密度、粒子の性質が必要です。式は質量差とエネルギー差を結ぶ強力な道具ですが、エネルギーを取り出す装置の設計図ではないのです。

1グラムの数字に驚く前に、条件を読む
1g=0.001kgの静止エネルギーを換算すると、約9×10¹³Jになります。大きな数字ですが、「1gの物を置けばこの全量を取り出せる」という意味ではありません。通常の化学反応や核反応で放出されるのは、初めと終わりの状態のエネルギー差です。
たとえばある反応で、対象とする物質の静止質量の差が1mgだったなら、それに対応するエネルギー差は約9×10¹⁰Jです。ここでも1mgの物体を用意したという意味ではなく、反応の前後で測った差です。全質量、質量差、取り出せるエネルギーを区別すると、派手な換算の見出しに振り回されにくくなります。
充電した電池は、ほんの少し重くなる?
理想化して、同じ物質量の電池へ外からエネルギーを蓄え、温度など他の条件をそろえると、エネルギーが増えた分だけ系の質量も増えます。仮に100Wh=360,000Jを蓄えた差なら、Δm=ΔE/c²は約4×10⁻¹²kg、つまり約4ナノグラムです。
これは家庭のはかりで確かめられるような差ではありません。実際の電池では温度、気体、材料の状態、測定条件なども問題になります。この例の面白さは、原子力のときだけ質量とエネルギーが関係するわけではない、と分かることです。熱を蓄えた物体や、エネルギーを閉じ込めた箱にも同じ観点が使えます。
説明用の整理です。数値例の条件や模型の限界は本文で確認してください。
なくなった質量は、どこへ行った?
反応後の物体だけを量れば、エネルギーを外へ放出した分だけ質量が小さくなることがあります。しかし放出された光や粒子も含めて全体を追えば、エネルギーと運動量の保存を考えられます。「消滅して帳尻が合わなくなった」という話ではありません。
反射する理想的な箱の中へ光を閉じ込めると、光子一つの静止質量は0でも、箱と中身を合わせた系の静止エネルギーは増えます。系全体の質量は、部品の静止質量を足すだけでは決まらないのです。どこまでを一つの系として数えるかを明確にすることが、質量の話を理解する近道になります。
収支表を、自分の言葉で作る
物体を囲む箱を想像して、外から入ったエネルギー、外へ出たエネルギー、箱の中に残ったエネルギーを書き分けてみましょう。電池に100Whを与えても、その全てが内部に蓄えられるとは限りません。熱として外へ逃げた分があるなら、質量差の計算に使うのは蓄えられた正味のエネルギーです。
「充電器から100Wh使った」と「電池に100Wh増えた」は同じではありません。E=mc²の換算は正しくても、どのエネルギーを代入するかを間違えれば結論が変わります。これは物理だけでなく、数字を読むときの一般的な注意点にもなります。
また、電池だけを量るのか、充電器も含む密閉された系を考えるのかで、境界をまたぐ流れが変わります。系の境界を一つ描き、そこを何が通ったかを見る。質量が増えた、減ったという言葉の前に、この準備をすると話が見通せます。
核融合なら、どんな材料でもエネルギーが出る?
いいえ。融合すればいつもエネルギーを取り出せるわけではありません。反応の前後で、核の結合状態と全体のエネルギーがどう変わるかによります。軽い核がより強く結びつく過程と、重い核をさらに重くする過程は同じではありません。
太陽の話から「大きくまとめるほど必ず得をする」と覚えないことが大切です。E=mc²は差を換算する式で、その差の向きや反応の起こりやすさは、核の物理を調べる必要があります。日差しを出発点に考えると、身近なエネルギーが、粒子の結びつき方という小さな世界へつながることが見えてきます。
式から読み取れること、読み取れないこと
この式が教えるのは、静止質量と静止エネルギーの定量的な関係です。どの反応が起きるか、どのくらい速く進むか、安全にどう利用するか、宇宙の全てがなぜ存在するかまでは、式一つでは決まりません。
日なたに置いた葉を見たとき、その光が太陽の核反応に由来し、状態のエネルギー差が質量の差にも対応する、と考えてみてください。有名な式が、黒板の記号から目の前の光へつながります。次回はもう一つ身近な道具、スマートフォンの位置測定へ。小さな時間の差を無視できないGPSを通して、相対論が実用品を支える様子を見ます。
調べるときに参照した資料
Einstein Online:Is the whole the sum of its parts?(参照内容の要約)
結合エネルギーと質量欠損の関係を確認。核反応の仕組みと、質量差を換算する式の役割を区別して説明しました。
Einstein Online:Special relativity(参照内容の要約)
静止エネルギー、運動量を含む相対論的な記述の基礎を参照しています。電池の100Whの例は単位換算からの独自計算です。
資料確認日:2026年10月27日。参照内容は当サイトの言葉で要約し、本文の例・計算・図解は独自に構成しています。
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