眠っている間、私たちに何が起きている? — 第2回 / 全5回
時計を見なくても、毎日似た時刻に眠くなったり、お腹がすいたりします。ところが、時差のある場所へ移動すると、現地は朝なのに体は夜のように感じることがあります。体内時計は、私たちが腕時計の針を動かすのと同じ速さでは切り替わらないのです。
第二回では、体の中で繰り返される変化と、外界の光による調整を分けます。「暗くなったから、その瞬間に眠るだけ」という説明では、なぜ時差ぼけが起こるかが見えてきません。
時計は、針ではなく繰り返す仕組み
体内時計とは、小さな時計型の器官があるという意味ではありません。遺伝子の働きや、そこから作られるたんぱく質の量・作用が、時間をかけて変化し、互いを調節する仕組みが関わります。
ある過程が進むと、その過程を抑える働きが強まり、やがて抑える側も弱まって再び進む。こうしたフィードバックを含む仕組みによって、周期的な変化が生まれます。実際には多くの要素が関わりますが、重要なのは、外から毎秒命令されなくても内部でリズムを作れることです。
このリズムの研究では、ショウジョウバエなどの生物が大きな役割を果たしました。人間の睡眠だけを観察するのでなく、遺伝子と行動の関係を調べられる生物から、共通する原理へ近づいてきたのです。
脳の時計と、全身の時計

人では、脳の視交叉上核という神経細胞の集まりが、体の時計をまとめる重要な役割を持ちます。ただし、時計の働きは脳だけに存在するわけではありません。多くの組織や臓器にも、それぞれのリズムがあります。
全身の楽団を考えると、指揮者だけが音楽を演奏しているわけではないように、中央の調整と、各場所での働きが重なっています。たとえ話としては便利ですが、臓器が意識して合図を待っているわけではありません。
睡眠、体温、ホルモン、食欲などに日内の変化があるのは、体内時計が就寝時刻を知らせるだけの装置ではないためです。一日の中で働き方を変える仕組みと考えると、役割の広さが分かります。
光は、体の中へ「外の時刻」を伝える
目に入る光は、景色を見るためだけでなく、昼夜の情報としても使われます。視覚の情報と関係しながらも、物の形を認識することだけが目の役割ではありません。
光の影響は、当たった時刻、明るさ、長さ、波長の構成、直前までの環境などによって変わります。「青い光はいつでも悪い」「明るければ必ず同じだけ時計が進む」と、一つの条件へ単純化することはできません。
朝と夜では、同じような光でもリズムへ与える方向が異なる場合があります。体内時計を理解するには、「何を浴びたか」に加え、「体のリズムのどの時点で浴びたか」が大切です。
メラトニンは、眠りの唯一の原因ではない

メラトニンは、夜の時期を体へ伝える働きに関わるホルモンです。その分泌は光の条件や体内時計と結びついています。ただし、眠りをメラトニン一つだけで説明することはできません。
第一回で扱った、起きていた時間に伴う睡眠への欲求もあります。日中の活動や緊張など、眠りへ入りやすいかどうかに関わる条件も重なります。ホルモンの名前を覚えることと、睡眠の全体像を理解することは別です。
この連載では、サプリメントの摂取量や使い方へ話を広げません。体内時計の説明から、個人に合う治療や摂取方法を直接決めることはできないためです。
時差ぼけは、二つの時刻のずれ
飛行機で遠くへ移動すると、時計は現地時刻へすぐ合わせられます。しかし、体のリズムは移動前の生活の影響を残しています。外界の昼夜と内部のタイミングがずれ、眠気や活動しやすさに違和感が生じます。
単に長旅で疲れただけなら、時差の向きや現地の時刻を考える必要はありません。体内時計のずれが関わるからこそ、「疲労」と「時刻の不一致」を分けて考える意味があります。
食事や活動なども時計へ関わるため、光だけですべてを説明するものではありません。全身の調整が同時に瞬間移動するわけではない、と捉えると、ずれが残ることを理解しやすくなります。
資料を読む|生物の中の一日
NIGMSの解説は、体内時計を遺伝子やたんぱく質の働き、脳の主時計、全身のリズムという異なる階層で整理しています。2017年のノーベル生理学・医学賞の資料は、概日リズムの分子機構の発見を紹介しています。
この記事の図でも、細胞内の繰り返しと、目から入る光による調整を別々に描きます。光が入るたびに体のすべてが即座にリセットされる図にはしません。自分で刻むリズムと、外へ合わせる仕組みの両方が必要だからです。
日常の時間に、もう一つの時計がある
予定表の時刻と、体が感じる時刻は、いつも完全には重なりません。この違いを知ることは、自分や他人の眠気を怠けの一言で判断しない助けにもなります。
ただし、朝型・夜型といった傾向だけで、個人のすべての能力や生活の適性を決めるわけではありません。人のリズムには幅があり、年齢や環境などでも変わります。
次回は、眠りに入った後の世界です。夢の中では、あり得ない場所へ移動したり、不思議な出来事を当然のように受け入れたりします。脳は眠っているのに、なぜこんな体験を作るのでしょうか。
参考資料
- NIGMS「Circadian Rhythms」
- Nobel Prize「The Nobel Prize in Physiology or Medicine 2017」
- NHLBI「Your Sleep/Wake Cycle」
資料確認:2026年10月26日。本文の資料紹介は、明記した場合を除き当サイトによる要約・説明です。
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