眠っている間、私たちに何が起きている? — 第5回 / 全5回
眠るときは横になり、目を閉じ、しばらく動かなくなる。人間を基準にすると、これが睡眠の姿に見えます。では、長い間海の上を飛ぶ鳥は、いつ眠るのでしょう。片方の目を開けている動物は、本当に眠っているのでしょうか。
動物の睡眠を調べるには、見た目だけでなく、脳の活動や刺激への反応などを確かめる必要があります。最終回では、グンカンドリの飛行中の計測を入口に、人間の眠りを基準にしすぎない見方を探します。
動いていないだけでは、睡眠と決められない
じっとしている動物が、眠っているとは限りません。周囲を警戒していることもあれば、静かに休んでいることもあります。逆に、動きがあるから絶対に眠っていない、とも言い切れません。
研究では、姿勢や行動、刺激への反応、睡眠を妨げた後の変化、可能な場合は脳波などを組み合わせます。生物の種類によって、使える方法も、睡眠を定義する手がかりも違います。
人間と同じ脳波の形が見えるかだけで、すべての動物の睡眠を判定することはできません。異なる体や神経系を持つ生き物を比べるときには、共通する機能と、測定方法の違いを意識する必要があります。
グンカンドリの頭に、小さな記録装置を付ける

長く飛び続ける鳥は飛行中に眠るはずだ、と推測することはできます。しかし、長時間飛んだという記録だけでは、睡眠の直接の証拠になりません。途中で眠っていなかった可能性もあるからです。
Rattenborgらの研究では、海上を飛ぶグンカンドリの脳活動と動きを、小さな記録装置で測りました。飛行の記録と睡眠状態の記録を組み合わせることで、空中で眠ることを直接確かめています。
この点が、研究の大切な部分です。「きっとそうだろう」と自然に思える説明でも、別の可能性を除くためには測定が必要です。動物の暮らしを邪魔しにくい小型の装置が、観察できる範囲を広げました。
片側だけでなく、両側の睡眠もあった
一部の鳥や海生哺乳類には、左右の脳半球が同じようには眠らない状態が見られます。半球睡眠などと呼ばれ、片側がより覚醒に近い働きを保つことで、環境への対応と睡眠を両立することに関わります。
グンカンドリの飛行中の記録でも、片側だけの睡眠が見られました。さらに、両側が睡眠状態になる場面も報告されています。「鳥は必ず脳の半分を起こして飛ぶ」と一つのパターンへ固定しないことが重要です。
また、脳の片側が眠ることを「半分の脳が電源オフになる」と表現するのは正確ではありません。第一回から見てきたように、睡眠中にも脳は活動しています。活動の状態が変わるのであって、部品を取り外したように働きが消えるわけではありません。
空中で眠れるなら、陸上の眠りは不要?

研究では、飛行中の睡眠は陸上よりずっと少ないことも示されました。空中で眠る能力があるからといって、飛行中に普段と同じ量を自由に眠れるわけではありません。
飛ぶこと、周囲の状況を捉えること、進む場所を選ぶことには、それぞれの要求があります。動物の能力を「すごい裏技」としてだけ見ると、その制約を見落としてしまいます。
この結果を人間へ移して、「少しずつ眠れば睡眠時間を大幅に減らせる」と解釈することもできません。動物種の違いと、限られた行動場面の記録を区別する必要があります。
目を開けているか、だけでは分からない
目の開閉は観察しやすい手がかりですが、それだけで睡眠を判断できるとは限りません。脳の左右の状態、姿勢、周囲への反応なども関わります。水中で暮らす動物、木の上で暮らす動物では、眠る際に必要な行動も違います。
ペットが足を動かしているのを見ると、走る夢を見ていると思いたくなります。その可能性を想像することと、具体的な夢の内容を証明することは別です。動きだけから、夢の筋書きまで読み取ることはできません。
第三回で、人間の夢にも報告や測定の限界があると見ました。言葉で体験を説明できない動物では、その区別をさらに大切にする必要があります。
資料を読む|推測を測定へ変えた研究
2016年のNature Communications論文は、グンカンドリの飛行中の脳活動を記録し、片側または両側の睡眠を示しました。マックス・プランク研究所の紹介は、飛行している事実だけでは睡眠の証拠にならない、という研究の出発点を説明しています。
この記事の図は、左右の脳半球の状態の違いを色で表しますが、実際の脳波を描き写したものではありません。また、すべての鳥が同じ眠り方をするという図でもありません。特定の生物で確かめられた結果として読みます。
人間の眠りも、広い世界の一つの形
この連載では、眠気の二つの仕組み、体内時計、夢、記憶、動物の睡眠を見てきました。睡眠は単に意識が切れて何も起きない時間ではなく、さまざまな活動が状態を変えて続く時間です。
一方で、その役割や進化の理由がすべて一つの説明にまとまったわけではありません。動物を比較すると、眠りに共通する点と、暮らしに応じて異なる点が見えてきます。違いがあるからこそ、何が本質なのかを問い直せます。
明日の朝、目が覚めたときには、自分の一晩を空白ではなく、まだ研究の続く複雑な時間として見てみてください。毎日経験していることの中にも、分かったことと、これから分かることが同居しています。
参考資料
- Rattenborgほか(2016)Evidence that birds sleep in mid-flight
- Max Planck Society「First evidence of sleep in flight」
- 「Local Aspects of Avian Non-REM and REM Sleep」(2019)
資料確認:2026年10月26日。本文の資料紹介は、明記した場合を除き当サイトによる要約・説明です。
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