コップ一杯から始まる、水の不思議。 — 第3回 / 全5回
キッチンペーパーの端を水へ触れさせると、濡れた部分がじわじわ上へ広がります。紙全体を水につけたわけではありません。水は低い方へ流れるはずなのに、どうして上へ進めるのでしょう。
紙の中には、繊維の間にたくさんの細い隙間があります。水とその表面の相互作用、表面張力、重力が組み合わさり、水が隙間へ入り込んでいきます。第三回は、前回の水滴の境界の話を、細い通路へ広げます。
紙は、一枚の均一な板ではない
一見なめらかな紙も、細かく見れば繊維が重なった構造を持ちます。その間の隙間が、水の通り道になります。穴が一本まっすぐ通っているというより、太さや向きの違う通路がつながったものと考える方が近いでしょう。
水は繊維の表面を濡らしながら入り込みます。水となじみやすい面では、水の先端の形が変わり、隙間の中へ進む方向の働きが生まれます。このような現象を、細い管の例に由来して毛細管現象と呼びます。
紙だけの特殊能力ではありません。細いガラス管、多孔質の材料、土の小さな隙間などでも、条件によって似た現象が起きます。一方、水をはじく性質の強い材料では、同じように上がるとは限りません。
細い管では、水面が曲がる

水となじみやすい細い管に水が入ると、水面は中央が低く、壁際が高いように曲がります。この曲がった境界と表面張力が関わり、管の内側と外側の圧力に差ができます。
入門的には「水が壁に引かれ、その水に続いて別の水も動く」と説明できます。ただし、分子が列を作って上へ手渡しされるわけではありません。境界での相互作用と、液体全体の圧力や流れとして理解します。
曲がった水面をメニスカスと呼びます。理科のメスシリンダーで水面の位置を読むときに出会った形と、同じ話につながります。測定器の読み方の注意だと思っていたものにも、液体の性質が表れています。
どこまでも上がり続けるわけではない
水が上がると、その水の重さも増えます。理想的な細い管では、上げる働きと重力による働きが釣り合う高さがあります。水を吸い上げる力が無限に続くのではありません。
同じ材質と条件なら、細い管ほど高く上がる傾向があります。ただし、細いほどいつでも速い、と考えるのは別問題です。流れにくさも関わるため、最終的な高さと、そこへ達する時間を分けて考える必要があります。
紙では管の形が不規則で、蒸発も起きます。単純な一本の管の式から、ペーパーの濡れる高さや速さをそのまま正確に予測することはできません。模型は原理を見せるもので、材料のすべてを再現するものではないからです。
吸水性のよい紙は、何が違う?

繊維の性質、隙間の作られ方、厚さ、表面処理などによって、水の入り方や保ち方は変わります。同じ紙という名前でも、印刷用紙とキッチンペーパーでは、求められる役割が違います。
吸い始めが速いこと、たくさん保持できること、濡れても破れにくいことは、別々の性質です。一つの実験で速さを見ただけでは、紙としての性能をすべて比べたことにはなりません。
例えば、同じ面積でも厚さが違えば、隙間に保持できる量が変わります。吸った水の量を比べるなら、面積だけをそろえるのか、乾いた紙の質量をそろえるのかで、比較の意味が違います。身近な道具でも、何を比べたいかを先に決める必要があります。
大きな木も、紙と同じ仕組みだけで水を上げる?
植物の中にも細い通路があるので、毛細管現象だけで木のてっぺんまで水が届くと思いたくなります。しかし、高い木の水輸送は、それだけで説明するものではありません。
葉からの蒸散と、水の連続した柱に働く張力などが重要です。毛細管現象を学ぶことはよい入口ですが、一本の細いガラス管を、そのまま大木全体の完全な模型と見なさないことが大切です。
以前の「大きな木の体はどこから来たのか」という記事と合わせると、材料としての水と、植物の中を移動する水を別の角度から見られます。生き物の中では、物理と生命活動がつながっています。
資料を読む|高さには限界がある
USGSのCapillary Action and Waterは、細い管を上がる高さが、表面張力だけでなく重力にも制限されることを説明しています。この点を押さえると、「重力に逆らう不思議な力」という印象から、複数の働きの釣り合いへ理解を進められます。
図では、太さの違う管と、繊維の隙間を並べました。紙の中に同じ太さのまっすぐな管が並んでいるわけではありません。単純な管の例を、複雑な材料へ考えを移すために使っています。
濡れた境界を、時間と一緒に見る
濡れてもよい受け皿の上で、キッチンペーパーの端を少量の水へ触れさせ、濡れた場所がどう広がるかを見てみましょう。縦方向だけでなく、横へ置いた場合にも水が広がることが分かります。
開始直後と少し後で、進む速さは同じでしょうか。紙の模様や折り目で、境界の形は変わるでしょうか。答えを急がず、観察する条件を書き留めると、一枚の紙が複雑な構造を持っていることに気づきます。
次回は、吸い込まれた水が出ていく過程です。洗濯物は沸騰していないのに乾きます。水はどこへ行き、何が乾く速さを変えているのでしょうか。
参考資料
資料確認:2026年10月26日。本文の資料紹介は、明記した場合を除き当サイトによる要約・説明です。
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