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原子はスカスカなのに、なぜ壁を通り抜けられないの?

石の壁にそっと触れる手。原子と接触を考えるためのAI生成イメージ。 大人の「なぜ?」を楽しむ
AI生成のイメージ画像。
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机に手を置くと、手はそこで止まります。壁にもたれると、壁は体を支えてくれます。あまりに当たり前なので、なぜそうなるのかを考える機会は少ないかもしれません。

ところが、物質を作る原子の図を見ると、中心に小さな原子核があり、その周りに電子が広がっています。「原子はほとんどスカスカ」と聞いたことがある人もいるでしょう。それなら、手の原子が壁の原子の隙間を通れそうな気がします。

答えの鍵は、原子を、小さな硬い玉が飛び回る空箱だと考えないことです。電子の広がり、電磁気的な相互作用、電子が従う量子の規則を合わせて考えると、「硬い」という感触の背景が見えてきます。

「スカスカ」は、どこを見て言っているのか

原子核は、原子全体の広がりに比べて非常に小さく、質量の大部分がそこに集中しています。原子核の大きさだけを基準にすれば、原子の内部には原子核で埋まっていない領域がたくさんあります。ここから「ほとんど空間」という表現が生まれます。

ただし、その領域を、何の働きもない通路と読み替えると話が変わります。電子は惑星のように決まった線の上を走る小球ではありません。量子力学では、どこで検出されるかの確率に関わる波動関数で状態を表します。電子雲という絵は、その空間的な広がりを伝えるための表現です。

雲の淡い場所が「電子が留守なので人間が入れる穴」なのではありません。また、雲が普通の霧のような素材でできているわけでもありません。原子の絵は測定できる性質を整理したモデルであり、箱の内部を小型カメラで撮った写真ではないのです。

たとえば建物の部屋が空いているかを調べるときは、家具が占めていない場所を見ればよいでしょう。しかし原子では、粒の体積を引いた残りだけで「通りやすさ」は決まりません。そこへ別の原子を近づけたときに、系全体の状態とエネルギーがどう変わるかが大切です。

小さな原子核と電子の広がり、原子の質量の集中と物体の通りやすさの違い。
図解:もっといいこと編集部作成。原子核と電子雲の大きさは実際の比率ではありません。電子雲は確率分布を伝える模式表現で、普通の霧や物理的な殻ではありません。

手を近づけると、原子同士が相互作用する

手にも机にも、正の電荷を持つ原子核と、負の電荷を持つ電子があります。物体全体で電荷がほぼ打ち消し合っていても、原子の近くで電磁気的な作用がなくなるわけではありません。どの電荷がどこに分布しているかによって、引き合う作用も反発する作用も生まれます。

したがって「電子は負なので互いに反発する」だけでは、物質の説明は完成しません。それだけなら、原子が結びついて分子や固体を作ることも説明できなくなるからです。電子と原子核の引力を含め、全体のエネルギーを考える必要があります。

原子間には、結びついている方が安定になる距離があります。そこから無理に近づけると、電子の状態や分布を変えるために大きなエネルギーが必要になります。机を押したとき、表面や内部がほんの少し変形しながら抵抗するのは、このような原子レベルの性質が集まって現れたものです。

ここで「反発」と呼んでいるものを、新しい種類の謎の力だと思う必要はありません。電磁気的な相互作用と量子力学に従ってエネルギーを計算すると、近づけすぎることに抵抗する性質が出てくる、という話です。

電子には「同じ状態に重なれない」という規則がある

電子はフェルミ粒子の仲間で、パウリの排他原理に従います。同一の電子二つが、まったく同じ一粒子量子状態を占めることはできません。この規則は、原子の中で電子がどのような状態を取れるかや、物質の安定性に関係します。

大切なのは、「同じ状態」と「同じ場所」を同じ意味にしないことです。同じ空間的な軌道にも、スピンの異なる二つの電子は入れます。電子の分布が空間的に重なること自体を一切禁止する規則ではありません。化学結合を考えるときにも、この違いが必要になります。

座席にたとえるなら、一つの席の番号は場所だけでは決まらず、ほかの状態の情報も含めた完全な番号だ、と考える方が近いでしょう。ただし、電子には予約を確認する意思も、順番を守ろうとする意識もありません。「席」は規則を思い浮かべるための比喩です。

出典の要約|OpenStaxの排他原理の説明

この教科書は、原子中の二つの電子が同じ四つの量子数を持てないことを、電子配置と周期表に結びつけて説明しています。同じ空間的な軌道に二つの電子が入れるのは、スピンの状態が異なるためです。排他原理を『電子は同じ場所に存在できない』とだけ言い換えると、この区別が失われます。

OpenStax:University Physics Volume 3, 8.4 The Exclusion Principle and the Periodic Table

二つの物体を押し込むときは、膨大な電子の状態を、この規則を守りながら組み替えなければなりません。その結果生じるエネルギーの変化が、物体を同じ体積へ簡単に詰め込めない理由の重要な一部になります。原子核の間に見た目の隙間があることは、その費用がゼロであることを意味しません。

原子が近づきすぎるとエネルギーが上がり、ある距離に安定点がある模式的な曲線。
図解:もっといいこと編集部作成。理解のための代表的な模式曲線です。特定の壁材を測定したデータではなく、すべての結合をこの曲線一つで表せるわけではありません。
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それなら、柔らかい物や水はどうなっている?

金属もスポンジも原子からできていますが、押した感触は違います。原子同士の結びつきに加え、分子の構造、結晶の並び、繊維や空孔の配置などが異なるからです。スポンジでは、内部の大きな空孔がつぶれ、骨組みが曲がることで、全体の形が大きく変わります。

つまり、スポンジの穴と、原子核の周りの「空間」は同じ意味の隙間ではありません。前者は物質の構造として空いている領域で、空気や水が出入りできます。後者をそのまま拡大して、同じような通路だと考えると誤解します。

水に手を入れられるのも、手と水の原子が互いを無視して重なったからではありません。液体を作る分子が位置を変え、手の入る場所から押しのけられます。浴槽に入ると水位が上がることを思い浮かべると、「通り抜ける」と「相手を動かして入る」の違いが分かります。

壁を破って向こう側へ行く場合も同様です。壁の材料の結びつきや構造を壊し、破片を移動させています。壁をそのまま残して体だけがすり抜けることとは、必要な過程が違います。

「量子トンネル効果なら通れる」と聞くけれど

量子の世界には、古典的には越えられないエネルギー障壁の向こう側で粒子が見つかる、トンネル効果があります。これは実験や装置の動作で確かめられる現象です。たとえば走査トンネル顕微鏡は、探針と試料の間をトンネルする電子による電流を利用します。

出典の要約|トンネル効果が使われる装置

走査トンネル顕微鏡では、探針と表面の間を流れるトンネル電流が、両者の距離に非常に敏感であることを利用します。電子が薄い障壁を透過するという説明が、原子レベルの表面を調べる具体的な測定につながっています。巨視的な物体の通り抜けを示す実験ではありません。

OpenStax:College Physics 2e, 31.7 Tunneling

しかし、「電子に起きることなら、人間にも日常的に起きる」という拡張はできません。透過の確率は、障壁の幅や高さ、粒子の質量などに非常に敏感です。さらに人間は、膨大な粒子が結びつき、周囲と相互作用している複雑な物体です。一個の電子の問題を、そのまま人間の形を保った移動へ置き換えられません。

「何回も壁に向かえばいつか成功する」「意識で量子的な状態をそろえればよい」という結論を、この現象から導くことはできません。面白いのは、魔法の抜け道が見つかることではなく、日常の硬さを説明する理論と、極小の装置で使う理論がつながっていることです。

私たちは本当は何にも触れていないの?

ここまで聞くと、「原子核同士が直接ぶつからないなら、本当は触っていないのでは」と考えたくなるかもしれません。でも、触れるという日常の言葉を、原子核が接触することだけに限定する必要はありません。

手と物体の間で力が伝わり、皮膚が変形し、その変化を感覚として受け取る。それが私たちの接触です。触覚が電磁気的・量子的な仕組みを通して成立するからといって、感触が偽物になるわけではありません。

机は確かに手を支えています。ただ、その理由は「硬い小球がびっしり詰まっているから」という直感より豊かでした。原子を小さく見るほど、硬さは素材の見た目ではなく、状態を変えることへの抵抗として理解できるようになります。

次に考えてみたい「なぜ?」

同じ固体でも、ガラスは光を通します。人の手と光では物質との相互作用がどう違うのでしょうか。ガラスが透明な理由へ進むと、この疑問を続けて考えられます。原子の「空間」と真空の違いは、真空とは本当に何もないのかでも扱っています。

参考資料と画像について

本文の囲みは、資料の内容を本記事向けに要約したものです。原文の転載ではありません。以下は、本文で紹介した資料に加えて参照した背景資料です。

OpenStaxの電子配置の説明とトンネル効果の節を、各出典欄で示しています。

アイキャッチ画像はAI生成のイメージです。説明用の図解は本記事用に作成し、観測画像には個別に出典とクレジットを付けています。資料確認日:2026年10月24日。

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